弁護士法人はるか|長野法律事務所

訴訟か仲裁か

先日のブログで、アップル対日本の企業の紛争に関する裁判例を掲載しました。これは、日本の裁判所での判断ですが、外国企業との紛争では、裁判だけでなく、仲裁も多く行われます。

契約書には、当事者間で紛争が起きた場合、どのように解決するのかをあらかじめ定めておくことが一般的であり、先日ご紹介した裁判例では、アメリカのカリフォルニア州の裁判所で解決を試みることの合意がありました(そして、その合意の有効性が問題になりました。)。

このような合意を国際裁判管轄の合意と言います。他方、「当事者間で紛争が生じた場合、仲裁により解決する。」と言った合意がなされることがあり、これを仲裁合意と言います。

仲裁と言っても喧嘩の仲裁のようなものではなく、手続きに基づき仲裁人が組織され、当事者双方が主張、立証を行い、最終的に仲裁人が判断を下すものであり、行っている内容は裁判と非常に似たものとなっています。

仲裁は、原則として非公開で行われ、また、仲裁人は、その紛争に関して専門知識を有している者を選定することができ、また、裁判と比べて柔軟な解決を図ることができるので、企業秘密に関する紛争を解決するにあたってはメリットがあります。

ただ、仲裁は、裁判と比較して費用が高額になり、また、上訴手続がないというデメリットもあります。

また、仲裁は、その判断の強制執行の場面でのメリットが指摘されています。裁判の場合、その判断を下すのは裁判所(=国)ですから、外国判決に基づき強制執行をするということは、外国が下した判断を国内で強制するという点で、主権の問題が生じます。

そのため、中国企業との紛争で、仮に日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、日本の判決に基づき中国で強制執行はできません。

一方、仲裁判断に基づく執行については、外国仲裁判断の承認と執行に関する条約(ニューヨーク条約)があり、日本も中国もニューヨーク条約を締結しています。そのため、中国企業との紛争を仲裁で解決した場合、中国で執行することができるようになります。この点で、仲裁は、裁判よりも優れています。中国企業との取引を行う場合は、仲裁合意を設けることを念頭にするべきであるといえます。

ただ、日本では現状、仲裁にはなじみが薄いと思われます。それは、日本には世界的に有名な仲裁機関がないことが一因であると考えられます。有名な常設の仲裁機関は米国仲裁協会、国際商業会議所国際仲裁裁判所、ロンドン国際仲裁裁判所であり、また、アジアの仲裁機関で有名なものは香港、シンガポールにあります。日本にも日本商事仲裁協会がありますが、あまり知られていません。

いまや大企業だけでなく、中小企業も多く外国企業との取引を盛んに行うようになっていますが、トラブルが起きた場合の対応は、国内間の取引とは比較にならないほど労力がかかることになります。

そのため、合意のときから、紛争が生じた場合を想定し、なるべく多くの選択肢の中から、上記メリット、デメリットを考慮し、当事者双方にとって最適の紛争解決方法を探ることが重要になります。